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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)146号 判決

東京都中央区八重洲二丁目六番四号

原告

大日本不動産株式会社

右代表者代表取締役

松岡源之真

右訴訟代理人弁護士

穴水広真

東京都中央区新富二丁目六番一号

被告

京橋税務署長

右指定代理人

野崎守

横川七七一

竹田準一

沼田定美

主文

原告の請求をいずれも棄却とする。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和五四年一二月一八日付けでした、昭和四八年一一月一日から昭和四九年一〇月三一日まで(以下「四九年一〇月期」という。)、昭和四九年一一月一日から昭和五〇年一〇月三一日まで(以下「五〇年一〇月期」という。)、昭和五〇年一一月一日から昭和五一年一〇月三一日まで(以下「五一年一〇月期」という。)、昭和五一年一一月一日から昭和五二年一〇月三一日まで(以下「五二年一〇月期」という。)、昭和五二年一一月一日から昭和五三年一〇月三一日まで(以下「五三年一〇月期」という。)の各事業年度における法人税についての所得金額及び納付すべき税額の各決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、四九年一〇月期ないし五三年一〇月期の各事業年度(以下「各係争年度」という。)の法人税の確定申告をしなかつたので、被告は、昭和五四年一二月一八日付けで、原告の各係争年度の法人税について、別表1記載のとおりそれぞれ所得金額および納付すべき税額の決定(以下「本件各決定」という。)をした。

2  原告は、昭和五五年二月一二日、被告に対し、それぞれ異議申立てをしたところ、被告は、同年五月一日、原告の異議申立てを棄却するとの決定をしたので、原告は、同年五月三〇日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五七年六月二四日、審査請求を棄却するとの裁決をし、右裁決書謄本は、同年七月一七日、原告に送達された。

3  しかし、被告のした右各決定は、原告の所得を過大に認定したものであるから、違法である。

よつて、原告は、被告の本件各決定をいずれも取り消すことを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の各事実は認め、同3は争う。

三  被告の主張

1  松岡ビルの所有

(一) 原告は、その目的の一つに「貸室、貸店、貸事務所の経営」を掲げる会社である。

(二) 原告は、昭和三八年一二月二七日、請負人古久根建設株式会社との間に、東京都中央区八重洲二丁目六番地八(旧八重洲五丁目五番)所在の鉄骨鉄筋コンクリート鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付八階建・店舗事務所居宅(通称「松岡ビル」、以下「松岡ビル」という。)の建築請負契約を締結し、その完成後引渡しを受け、もつて、松岡ビルの所有権を取得し、その後、各室を後記のとおり賃貸し、賃料等の収益を得ている。

なお、原告が松岡ビルの所有者でかつ賃貸人であることは、以下の間接事実からも明らかである。

(1) 松岡ビルの敷地は原告の所有地であり、各係争年度中、原告は右敷地に借地権を設定しなかつた。

(2) 松岡ビルにつき、原告を債務者をする古久根建設の不動産工事先取特権の保存登記がされた。

(3) 右請負契約に基づく代金合計四八四七万五〇〇〇円(工事変更による増加分を含む。)は、原告振出の約束手形によつて支払われた。

(4) 原告が、松岡ビルの所有者としてその固定資産税を課されていた。

(5) 松岡ビルにおいて使用される電気の需給契約は、原告と東京電力株式会社との間で締結され、また、同ビルの電気及び上下水道料金は、原告名義の当座預金口座から自動振替によつて支払われていた。

(6) 松岡ビルの各室の賃貸借契約は、いずれも原告が貸主となり、原告が所有者として締結された。

(7) 松岡ビルの各室の借主に対する諸経費の請求書及び領収書は、原告名義または「松岡ビル経理部」の名称で作成され、原告の角印が押捺されていた。また、借主の田中房江との間の賃貸借室解約契約書は、「松岡ビル所有管理者」との肩書を付した原告名義で作成されており、借主の株式会社太陽プラザ通商、佐々木農機株式会社のそれぞれに対する手付金及び保証金の各領収書は、いずれも原告名義で作成されている。

(8) 借主である佐々木農機株式会社及び株式会社ブイプロセスの賃料及び諸経費は、いずれも原告名義の当座預金口座に振り込まれていた。

(9) 原告は、柳田雅司(東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第三八〇〇号事件)及び岩瀬淳夫(前同裁判所昭和五二年(ワ)第七三〇一号事件)を被告とする各訴訟において、原告が貸主として松岡ビルの部屋の賃貸借契約を締結したが被告の債務不履行を理由に解除したと主張して貸室の明渡し等を請求し、昭和五六年一〇月二八日、それぞれ、右賃貸借契約の期間延長等を内容とする訴訟上の和解を成立させた。

2  原告の各係争年度の所得金額の内訳は別表4記載のとおりであり、いずれもその範囲内でなされた本件各決定は適法である。

3  所得金額の明細

(一) 益金の額

原告は、松岡ビルの各室につき、別表2記載のとおり賃貸したので、別表3のとおり、それぞれ、各係争年度において、賃料、諸経費、仲介謝礼金等の収益を得た。

(二) 損金の額

(1) 役員報酬、電気水道料、電話料、固定資産税、都市計画税及び事業税

各係争年度について、役員の所得税確定申告の状況及び反面調査の結果に基づいて算定したもので、別表4の〈19〉ないし〈25〉欄記載のとおりの金額である。

(2) 諸費用(一般経費のうち、前記(1)の各費用並びに地代家賃、減価償却費、支払利息、貸倒金及び各種引当金の繰入額を除いた費用をいう。以下「諸費用」という。)

後記のとおり、その実額を算定できる資料がないので、原告の収入のうち、毎期に経常的に発生する賃料及び諸経費収入からなる経常収益(別表4の〈16〉欄)の額に、四九年一〇月期については別表5記載の、五〇年一〇月期については別表6記載の、五一年一〇月期については別表7記載の、五二年一〇月期については別表8記載の、五三年一〇月期については別表9記載の、各平均経費率(同業者率)を乗じて算出したもので、その各金額は別表4の〈24〉欄記載のとおりである。

4  推計の必要性

原告は、各係争年度の法人税確定申告書を提出していない、いわゆる無申告法人で、税務調査においても帳簿書類等を提出せず、非協力的態度に終始したため、被告は経費の額につき、その実額を把握できなかつた。

5  推計の合理性

(一) 被告は、原告と業種、業態が類似する同規模程度の同業者(以下「比準同業者」という。)として、

東京国税局長の被告に対する通達に基づき、松岡ビルの所在地を所轄する京橋税務署管内の東京都中央区八重洲二丁目または同区京橋一丁目ないし三丁目において貸しビルを有する不動産賃貸業(貸事務所業に限る。)を営む法人のうちから、次の(1)ないし(4)のいずれの基準にも該当する法人を選定した。

(1) 青色申告によつて申告している法人であること。

(2) 収入金額が、次の範囲内であること(原告の経常収益の額(別表4の〈16〉欄)の二分の一以上、二倍以下の額の範囲内)

ア 昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一四一六万八五六二円以上、五六六七万四二四八円以下

イ 昭和五〇年五月一日から昭和五一年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一三八三万六七五五円以上、五五三四万七〇二〇円以下

ウ 昭和五一年五月一日から昭和五二年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一五一九万五六五九円以上、六〇七八万二六三六円以下

エ 昭和五二年五月一日から昭和五三年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一五三四万五二六六円以上、六一三八万〇九〇六円以下

オ 昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一四一一万二八〇七円以上、五六四五万一二二八円以下

(3) 鉄骨鉄筋コンクリー卜造りのビルによつて賃貸収入を得ている法人であること

(4) 一二か月を通じて事業を継続している法人(災害等により経営状態が異常な法人を除く。)であること

(二) 右のとおり選定した比準同業者につき、調査対象事業年度において税務署長が更正または決定処分を行っている場合は、国税通則法または行政事件訴訟法の各規定による不服申立期間及び出訴期間の経過していない事業年度並びにその処分に対して不服申立てがされ、または訴訟が係属中である事業年度は除いた。

(三) 被告は、右基準により選定した同業者のうち、賃貸しているビルが入居者一社の専用で、かつ、各年度の総収入金額のうち株式投資収入割合が五四パーセントから七四パーセントとそのほとんどを占めている法人、及び賃貸しているビルの総面積が一七五八平方メートルで松岡ビルの八〇〇・四四平方メートルの二倍以上もあつて原告と同規模といえない法人の二社を除いたその余の法人を比準同業者とした。

(四) 右のとおり選定した比準同業者の一般経費率(ただし、経費は、役員報酬、退職金、電気水道料、電話料、固定資産税、都市計画税、事業税、地代家賃、減価償却費、支払利息、貸倒金及び各種引当金の繰入額を除いたもの。)の平均値が、別表5ないし9記載の各同業者率である。

(五) 比準同業者の選定には被告の恣意が介在する余地は全くなく、公正かつ合理的であり、被告が、このような比準同業者の平均一般経費率(以下「同業者率」という。)を用いて各係争年度における原告の諸費用を推計したことには合理性があるというべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち(一)は認める。(二)のうち、松岡ビルの建築工事が、原告が注文主として古久根建設との間で締結した契約によること、原告が右ビルを所有し賃貸しているとの前段の事実は否認する。後段(1)ないし(9)の事実のうち(6)は否認し、その余は認める。

松岡ビルの建設請負契約は、原告会社の代表取締役である松岡源之真(以下「松岡」という。)個人と日綿実業株式会社(以下「日綿実業」という。)との間で締結されたもので、日綿実業の要請で、形式上、注文主を原告名義としたにすぎない。また、古久根建設は日綿実業の下請けにすぎない。

そして、松岡ビルは、松岡及び株式会社全証(以下「全証」という。)外数名の共有に属するものであり、原告は、これら共有者からその管理を依頼され、管理者としてその賃貸借契約の取決め、賃料、管理費等の取立て等を代行しているにすぎないから、松岡ビルの賃貸に伴う収益は共有者に帰属し、原告に帰属するものではない。前記(1)ないし(5)、(7)ないし(9)の各事実は、原告が貸主とされていることの当然の結果であり、右事実をもつて原告が所有者と推認できるものではない。

2  被告の主張2は争う。

3  被告の主張3の事実は否認する。

仮に原告が、松岡ビルの所有者かつ賃貸人で、賃料等の収益を得ているとしても、

(一) 被告の主張3(一)(益金の額)につき、原告が、係争年度中、東山産業株式会社(以下「東山産業」という。)及び富慈商事株式会社(以下「富慈商事」という。)に貸室を賃貸し、別表3の〈7〉及び〈9〉記載のとおりの収入を得たとの事実は否認し、その余は認める。

原告は、東山産業との賃貸借契約を、昭和四五年八月二四日に解除しており、その以降は東山産業からの賃料収入はない。

また、原告は、富慈商事という会社を全く知らず、右会社と賃貸借契約を締結したことはない。

(二) 被告の主張3(二)(損金の額)(1)の各項目の金額について、いずれも認める。同(2)(諸費用)は争う。

4  被告の主張5のうち、同業者率についは争わない。

五  原告の反論

原告は、次のとおり、従業員に対し給料手当てを支払つており、これは、同業者率中の従業員に対する給料手当率によつて算出される給料額のはるかに超えるものであるから、これを損金の額に加算すべきである。その明細は、別表10記載のとおりである。

四九年一〇月期=八二一万六〇〇〇円

五〇年一〇月期=八六七万六〇〇〇円

五一年一〇月期=八六七万六〇〇〇円

五二年一〇月期=八六七万六〇〇〇円

五三年一〇月期=九一七万七〇〇〇円

六  原告の反論に対する認否

原告は、当初、諸費用の額について争わない旨を陳述し、後に、撤回したが、これは自白の撤回にあたり、異議がある。

原告が主張する従業員給料手当は、被告が同業者率を適用して算出した諸費用の額の内に当然に包含されているものであるから、これを損金に加算するべきであるとの原告の主張は失当である。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告の主張三1(松岡ビルの所属)について

1  以下の事実は、当事者間には争いがない。

(一)  原告は、その目的の一に「貸室、貸店、貸事務所の経営」を掲げる会社である。

(二)  松岡ビルの敷地は原告の所有であり、本件各係争年度中、原告は右敷地に借地権を設定しなかつた。

(三)  松岡ビルにつき、原告を債務者とする古久根建設の不動産工事先取特権の保存登記がされていた。

(四)  右請負契約に基づく代金合計四八四七万五〇〇〇円(工事変更による増加分を含む。)は、原告振出の約束手形によつて支払われた。

(五)  原告が、松岡ビルの所有者としてその固定資産税を課されていた。

(六)  松岡ビルにおいて使用される電気の需給契約は、原告と東京電力株式会社との間で締結され、また、同ビルの電気及び上下水道料金は、原告名義の当座預金口座から自動振替によつて支払われていた。

(七)  松岡ビルの各室の借主に対する諸経費の請求書及び領収書は、原告名義または「松岡ビル経理部」の名称で作成され、原告の角印が押捺されていた。また、借主の田中房江との間の賃貸借室解約契約書は、「松岡ビル所有管理者」との肩書を付した原告名義で作成されており、借主の株式会社太陽プラザ通商、同佐々木農機株式会社のそれぞれに対する手付金及び保証金の各領収書は、いずれも原告名義で作成されてる。

(八)  借主の佐々木農機株式会社及び同株式会社ブイプロセスの賃料及び諸経費は、いずれも原告名義の当座預金口座に振り込まれていた。

(九)  原告は、柳田雅司(東京地方裁判所昭和五二年ワ第八〇〇号事件)及び岩瀬淳夫(前同裁判所昭和五二年ワ七三〇一号事件)を被告とする各訴訟において、原告が貸主として松岡ビルの部屋の賃貸借契約を締結したが被告の債務不履行を理由に解除したと主張して貸室の明渡し等を請求し、昭和五六年一〇月二八日、それぞれ、右賃貸借契約の期間延長等を内容とする訴訟上の和解を成立させた。

2  右争いのない各事実に、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証、乙第二二ないし第二四号証、第二六号証、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第五号証の一及び二、第六ないし第一一号証、第二五号証、原告代表者尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、設立以来、松岡が代表取締役で、その家族を役員にした、いわゆる個人会社であるところ、賃貸ビルを建築するため、昭和三八年六月二五日、敷地を購入し、同年一二月二七日、日綿実業との間で、請負代金を四五八五万円、保証人を松岡とする松岡ビルの建築請負契約を締結したが、その施工は古久根建設があたることとなり、改めて、原告と古久根建設との間においても、同日付けで、日綿実業を立会確認者として代金額、支払方法につき同内容の請負契約を締結した。そして、その後、設計変更の追加の工事を経て、同ビルが完成し、原告においてその引渡しを受けた。

(二)  松岡ビルは、昭和五七年五月四日、住所、代表取締役を原告と同じくし、原告同様に松岡の個人会社である全証名義で所有権保存登記がなされ、その後の昭和五八年七月に締結された賃貸借契約は、全証を名義人としているが、それ以前は、原告が松岡ビルの賃貸人であつた。

以上によれば、本件各係争年度において、原告が松岡ビルの所有者であり、原告は同ビルの各室を他に賃貸して賃料等の収益をあげていたものといわなければならない。

3  原告は、松岡ビルは、松岡及び全証外数名の者の出資により建築された、これらの者の共有に属する建物であり、原告は、これらの者から管理を依頼され、無料で賃貸借契約に係わる事務を代行しているにすぎず、賃貸借に基づく収入はすべて共有者に帰属する旨を主張する。

そして、松岡は原告代表者尋問において、松岡ビルの建築工事は、松岡個人が、資金がなくても建築資金の大部分を立て替えて工事をするという日綿実業に注文したところ、同社から、契約は個人名義ではなく形式だけでも原告名義にして欲しいとの要請があつたため、形式上、原告の名義を用いて契約したにすぎない旨、松岡個人の資金では不足するため、松岡ビルを共有することにして、資金の一部を他のものに出してもらつた旨、これら共有者に依頼されて原告が賃貸借に関する一切の手続を代行した旨を供述し、甲第二一号証にも右供述に沿う記載がある。

しかし、松岡の原告代表者尋問及び右甲号証においても、原告が無料で松岡ビルの管理及び賃貸借に係わる諸手続の代行をするに至つた経緯及び収益の分配方法等共有者との具体的契約内容が明らかでないのみならず、松岡は、右代表者尋問の中で、「松岡ビルの建築資金の一部を出してくれた者に対しては、借りた金であるから全証の金を引き出して返済していき、大半の金を返済した後、全証名義で所有権保存登記をするに至つた。」など、建築資金は共同出資ではなく単に他から借金していたにすぎない趣旨の、前記供述と矛盾する内容の供述をしていること、更に前掲争いのない各事実及び前掲各証拠に照らせば、松岡他数名が松岡ビルを共有し、原告が共有者の依頼に基ついて賃貸借契約を代行していたにすぎない旨の前記供述部分及び甲第二一号証の記載部分は、到底措信することができないものといわなければならない。

なお、甲第三号証(建築確認通知書)の建築主の氏名欄及び乙第三〇、第三一号証の各確定申告書中の地代家賃等の内訳書の貸主欄に、いずれも「松岡源之真」との記載があるが、右記載は前記認定の妨げにはならず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三  益金の算定

1  原告が、別表2のうち、東山産業及び富慈商事を除くその余について同表記載のとおり賃貸し、別表3のうち、〈7〉及び〈9〉欄(東山産業及び富慈商事からの収入)を除き、その余について同表記載のとおりの金額の収入を得ていたことは、当事者間に争いがない。

2  東山産業からの収入の有無

いずれも原本の存在及び成立ともに争いのない乙第二号証の一及び三、別添四の明細表については成立に争いがなくその余についは証人菅野俊夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、官公署作成部分については成立に争いがなくその余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一三号証、原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、いずれも証人松村武志の証言により真正に成立したものと認められる乙第一四号証の一、第三号証、いずれも証人金子亘の証言により真正に成立したものと認められる乙第一九、第二〇号証によれば、東山産業は、その代表取締役である関谷武が死亡した昭和五四年一一月ころまで、原告から、松岡ビルの三階の一室を賃借し、これをその住所地としていたこと、その間の昭和四五年八月、右関谷がガンを患つて入院することになつたことから、一旦営業を中断して退去するため、同年八月二四日、原告、東山産業間において「貸室賃貸借解除契約書」を作成し、原告に保証金の六割を違約金として没収されたが、東山産業がその後も什器備品をおいたまま退去しなかつたため、原告は昭和四七年一月から、従来の資料の倍額である月二三万円(諸経費を含む。)を請求するようになつたこと、昭和四八年一一月以降は賃料を月二五万円にしたことが認められる。

原告代表者尋問の結果中及び甲第二一号証の記載中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして措信することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上によれば、原告は四九年一〇月期ないし五三年一〇月期の各期において、別表3の〈7〉欄記載のとおり、東山産業から賃料として三〇〇万(二五万円×一二)の収入を得ていたものと認められる。

3  富慈商事からの収入の有無

前掲乙第一号証、第一四号証の一、成立に争いのない乙第一六号証、官公署作成部分については成立に争いがなくその余の部分については弁論の全趣旨より真正に成立したものと認められる乙第一四号証の二ないし四、証人金子亘の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証、証人松村武志の証言により真正に成立したものと認められる乙第一五号証及び原告代表者尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば、富慈商事は設立登記をした昭和四七年四月二一日の以前から、松岡ビル三階の一室において、「フジクレジット」の屋号でいわゆるサラ金業を営み、昭和五〇年五月三一日に解散したこと、原告との間の右室の賃貸借契約は「フジクレジット」の従業員である「三由昇」を借主名義人として締結したこと、富慈商事は、原告に対し、保証金として五〇〇万円を支払つたほか、昭和四八年一一月までは月一五万円、同年一二月から昭和五〇年六月までは月一八万円の賃料を、昭和四九年六月まで月一一万八二〇〇円、同年七月から昭和五〇年五月まで月一三万五〇〇〇円、同年六月は月一五万円の諸経費を支払つていたこと、そのほか、原告は、富慈商事から、契約期間の中途解約であるとして、昭和五〇年六月ころに解約違約金として一二〇万円、保証金償却費として保証金の一割にあたる五〇万円、内装工事費として三一万円の支払いを受けたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

なお、松岡は、原告代表者尋問において、「富慈商事」あるいは「フジクレジット」の名前、または、代表取締役の「野本鐐次郎」の名を聞いたことがなく、これらの者に賃貸したことはない旨を供述するが、他方において、「三由昇」に当該部屋を賃貸していたことは認める旨の供述をしており、結局、右供述部分も富慈商事が「三由昇」名義で原告から賃借していたとの前記認定を妨げるものではない。

したがって、原告は、富慈商事から、四九年一〇月期及び五〇年一〇月期において、別表3の〈9〉欄記載のとおりの収入を得たことが認められる。

四九年一〇月期

賃料 二一三万円

(一五万円+一八万円×一一)

諸経費 一四八万五六〇〇円

(一一万八二〇〇円×八+一三万五〇〇〇円×四)

五〇年一〇月期

賃料 一四四万円

(一八万円×八)

諸経費 一〇九万五〇〇〇円

(一三万五〇〇〇円×七+一五万円)

中途解約違約金 一二〇万円

内装工事代金 三一万円

4  そうすると、各係争年度における原告の益金の額は、別表3及び4の〈18〉欄記載のとおり、四九年一〇月期は二八四七万七一二四円、五〇年一〇月期は三〇五八万三五一〇円、五一年一〇月期は三一九七万一三一八円、五二年一〇月期は三〇六九万〇四五三円、五三年一〇月期は二八九九万五六一四円となる。

四  損金の額

1  被告の主張3(二)(損金の額)のうち(1)(役員報酬、電気水道料、電話料、固定資産税、都市計画税及び事業税)の金額について、別表4の〈19〉ないし〈25〉記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  同4(推計の必要性)については、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

3  同5(推計の合理性)について検討する。

(一)  いずれも成立に争いのない乙第一七号証、第一八号証の一ないし五及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 東京国税局長は、被告に対し、推計により各係争年度における原告の経費額を算出するのに必要な同業者の選定につき、通達を発し、松岡ビルの所在地を所轄する京橋税務署管内の東京都中央区八重洲二丁目または同区京橋一丁目ないし三丁目において不動産賃貸業(貸事務所業に限る。)を営む法人のうちから、次の〈1〉ないし〈4〉のいずれの基準にも該当する法人を選定し、次の〈5〉の要件を満たす事業年度につき、その収入金額(家賃収入及び共益収入の合計で、臨時的収入は除く。)、一般経費(役員に対する報酬及び退職金、電気水道料、電話料、固定資産税、都市計画税、事業税、地代家賃、減価償却費、支払利息、貸倒金、各種引当金の繰入額は除く。)の額、及び経費率の報告を求めた。

〈1〉 青色申告によつて申告している法人であること

〈2〉 収入金額が、次の範囲内であること(原告の経常収益の額(別表4の〈16〉欄)の二分の一以上、二倍以下の額の範囲内)

ア 昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一四一六万八五六二円以上、五六六七万四二四八円以下

イ 昭和五〇年五月一日から昭和五一年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一三八三万六七五五円以上、五五三四万七〇二〇円以下

ウ 昭和五一年五月一日から昭和五二年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一五一九万五六五九円以上、六〇七八万二六三六円以下

エ 昭和五二年五月一日から昭和五三年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一五三四万五二六六円以上、六一三八万〇九〇六円以下

オ 昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの間に終了する事業年度においては、一四一一万二八〇七円以上、五六四五万一二二八円以下

〈3〉 鉄骨鉄筋コンクリート造りのビルによつて賃貸収入を得ている法人であること

〈4〉 一二か月を通じて事業を継続している法人(災害等により経営状態が異常な法人を除く。)であること

〈5〉 選定した比準同業者につき、調査対象事業年度において税務署長が更正または決定処分を行つている場合は、国税通則法または行政事件訴訟法の各規定による不服申立期間及び出訴期間の経過していない事業年度並びにその処分に対して不服申立てがされまたは訴訟が係属中である事業年度分は除いた。

(2) 被告は、東京国税局長に対し、前記の基準に該当するとして各係争年度毎に選定した同業者のうち、賃貸しているビルが入居者一社の専用ビルで、かつ、各年度の総収入金額のうち株式投資収入割合が五四パーセントから七四パーセントとそのほとんどを占めている法人、及び賃貸しているビルの総面積が一七五八平方メートルで松岡ビルの八〇〇・四四平方メートルの二倍以上もあつて原告と同規模といえない法人の二社を、比準同業者とするには不適当であるとして除き、その余の業者を比準同業者として、別表5ないし9記載のとおり、その収入金額、一般経費額及び経費率を報告した。

(3) 右報告に基づき、各係争年度についての比準同業者の平均経費率(同業者率)を算出すると、その数値は別表5ないし9記載のとおりとなる(同業者率自体については、当事者間に争いがない。)。

以上のとおり認められる。

(二)  右事実によれば、被告が選定した各比準同業者の選定基準は、合理的であつて、被告の恣意が介在する余地も認められないから、その選定は合理的なものというべきであり、このようして選定された別表5ないし9記載の比準同業者の平均一般経費率の算定根拠となる資料の正確性も高いものと認められ、したがつて、別表5ないし9記載の各同業者を適用して各係争年度における原告の諸費用の額を推計することには合理性があると認められる。

(三)  なお、原告は、当初、被告主張の同業者率及び諸費用の額は争わない旨を陳述していたところ、その後、諸費用の額についての自白は撤回する旨を陳述し(第二一回口頭弁論期日)、これに対し、被告は、自白の撤回に異議があると述べた。

しかし、同業者率及びそれを適用して算出した金額自体は、推計課税の合理性を基礎づける事実ではないから、自白の対象とならないものというべきである。

4  諸費用の額

そこで、前記三4で認定した各係争年度における原告の収益のうち、毎期に経常的に発生する賃料及び諸経費からなる、別表3、4の各〈16〉欄記載の経常収益に前記の各同業者率をそれぞれ乗じて算出すると、各係争年度における原告の諸費用の額は、別表4の〈24〉欄記載のとおりの各金額となる。

5  そうすると、各係争年度における原告の損金の額は、別表4の〈26〉欄記載のとおり、前記1の各費用と前記4の諸費用の合計、すなわち四九年一〇月期は一四一四万四六六〇円、五〇年一〇月期は一三三五万四七二六円、五一年一〇月期は一五〇二万二五七九円、五二年一〇月期は一四二六万一四七一円、五三年一〇月期は一五四三万六〇六八円となる。

6  なお、原告は諸費用の額につき、被告主張の金額に実際支出した従業員の給料手当を加算すべきであると主張するが、被告は経費の一部である諸費用を同業者率により推計しているものであるところ、被告が諸費用の計算に適用している同業者率は、前記のとおり、役員に対する報酬及び退職金、電気水道料、電話料、固定資産税、都市計画税、事業税、地代家賃、減価償却費、支払利息、貸倒金並びに各種引当金の繰入額を控除した、比準同業者のその余の経費を収入金額で除した経費率の平均値であるから、従業員に対する給料手当は、被告が推計した右諸費用に含まれていることが明らかである。

したがつて、被告主張の諸費用の額に原告が実際に支出したと主張する従業員の給料を加算するとすれば、従業員の給料手当を二重に計上することになるといわざるを得ないし、また、推計により原告の諸費用を算出している以上、その一部の項目である給料手当について実額を主張してみても、他の項目について実額を主張しない限り意味がないといわざるを得ないから、原告の前記の主張は合理性を欠くことが明らかであり、失当である。

五  所得金額

以上によれば、各係争年度における原告の所得金額を計算すると、別表4の〈27〉欄記載のとおり、四九年一〇月期は一四三三万二四六四円、五〇年一〇月期は一七二二万八七八四円、五一年一〇月期は一六九四万八七三九円、五二年一〇月期は一六四二万八九八二円、五三年一〇月期は一三五五万九五四六円となる。

六  よつて、本件各決定は、原告の各係争年度の所得金額の範囲内でされたものとして、いずれも適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 穴戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官 三村晶子)

別表1

〈省略〉

別表2

〈省略〉

別表3

収入金額の内訳 その1

〈省略〉

収入金額の内訳 その2

〈省略〉

別表4

所得金額計算書(費用の内訳・所得金額)

〈省略〉

別表5

昭和49年10月期の同業者率

〈省略〉

別表6

昭和50年10月期の同業者率

〈省略〉

別表7

昭和51年10月期の同業者率

〈省略〉

別表8

昭和52年10月期の同業者率

〈省略〉

別表9

昭和53年10月期の同業者率

〈省略〉

別表10

その1 給料手当明細表

〈省略〉

その2

〈省略〉

その3

〈省略〉

(備考) (1) 管理人は宿直を兼ねており、勤務期間中は松岡ビルに居住していた。

(2) 中村節子の住所は、東京都江戸川区南小岩7-31-16である。

(3) その余の者の住所は、資料が散逸していて、これを明らかにすることはできない。

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